先行研究にならって、言語モデルに自分の代わりをさせ、自分と同じ選択をするかを測りました。日記74日分(約2万字)、自己紹介の1行、面接の書き起こしなど、何を材料にしても、Apple の PCC での一致率は0.62〜0.67(62〜67%)に収まりました。日記を2万字読ませても自己紹介の1行と変わらず、材料を足すとむしろ下がることもありました。一方で、話し方は話す相手によってはっきり変わっていました。何を測って、アプリの設計をどう変えたかを書きます。
やりたかったこと
iPhone の日記アプリ(Liner Notes)を作っています。このアプリでは将来、「自分がどんな人だったかを家族に残す」ことを考えています。日記と会話の記録がたまれば、自分の代わりに答える AI(いわゆるデジタルツイン)をどこまで作れるのか、2026年10月に自分1人で測りました。方法は先行研究にならいました。Park ほか(2024)は、約1,000人に2時間の面接をして、その書き起こしから本人のアンケートの答えを言語モデルに予測させています。同じように、自分の材料を言語モデルに渡し、自分の答えを予測させました。
どう測ったか
自分の考え方や好みを問う74問を用意しました。性格、判断の仕方、時間やお金のリスクの取り方、日常の選択、社会的な態度の5つに分かれ、選択肢や5段階で答える形式です。まず自分で答え、次に言語モデルに材料を渡して「この人ならどう答えるか」を答えさせ、自分の答えとどれだけ近いかを測りました。
一致率は、1から「答えの差 ÷ 尺度の幅」を引いた値の平均です。1なら完全に一致です。でたらめに答えた場合は0.55になります。
モデルは、Mac で動かした Qwen2.5 の7B と14B(4bit)と、Apple の Private Cloud Compute(PCC)の3つです。
結果: 材料を変えても、一致率はほとんど変わらなかった
| 渡した材料 | PCC | 14B |
|---|---|---|
| でたらめに答えた場合 | 0.55 | 0.55 |
| 材料なし | 0.53 | (答えず) |
| 自己紹介の1行(年齢や家族構成などの基本情報) | 0.67 | 0.72 |
| 日記74日分(約2万字)と記録 | 0.66 | 0.68 |
| 面接12問の書き起こし(約5,700字) | 0.66 | 0.61 |
| 自己紹介の1行と、考え方を聞いた31問の答え | 0.64 | 0.61 |
渡した材料ごとの一致率
1が完全一致
点線: でたらめに答えた場合(0.55)
表で見る
| PCC | 14B | |
|---|---|---|
| 自己紹介の1行 | 0.67 | 0.72 |
| 日記74日分(約2万字) | 0.66 | 0.68 |
| 面接12問(約5,700字) | 0.66 | 0.61 |
| 1行と31問の答え | 0.64 | 0.61 |
日記を2万字読ませても、自己紹介1行と変わりませんでした。自分の考え方を直接答えた31問を足すと、むしろ下がっています。74問で測った1人分の結果なので、±0.05ほどは誤差と見ています。
下がった理由を調べると、自分の答えが聞き方によって食い違っていました。31問では「十分なら決める」「保留は苦にならない」と自由に書いたのに、74問の5段階では「迷うのは苦痛」に「ややあてはまる」と答えていました。モデルは私の言葉に従って答え、外れていました。
材料に関係なく、モデルの偏りが強く出る問いもありました。時間やお金のリスクを問う9問では、PCC はどの材料を渡しても「安全で、今すぐ」の側を選び、9問とも私と逆でした。問いの種類ごとに見ると、日記が効いたのは判断の仕方だけで、時間とリスクの問いはどちらの材料でも動きません。
問いの種類ごとの一致率(PCC)
1が完全一致
点線: でたらめに答えた場合(0.55)
表で見る
| 自己紹介の1行 | 日記74日分 | |
|---|---|---|
| 性格 | 0.65 | 0.69 |
| 判断の仕方 | 0.8 | 0.88 |
| 時間とリスク | 0.33 | 0.33 |
| 日常の選択 | 0.87 | 0.73 |
| 社会的な態度 | 0.57 | 0.55 |
内容ではなく、話し方は相手で変わっていた
何を話すかを材料にしても精度が上がらないなら、その人らしさは別の所にありそうです。そこで、自分の会話の録音から、話し方の数字を相手ごとに出してみました。
| 相手 | 発話の間(ま) | 一文の長さ |
|---|---|---|
| 同僚 | 1.6秒 | 32字 |
| 妻 | 2.2秒 | 20字 |
| 娘 | 2.8秒 | 20字 |
| 上司 | 5.3秒 | (未集計) |
相手ごとの発話の間(ま)
秒
表で見る
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 同僚 | 1.6秒 |
| 妻 | 2.2秒 |
| 娘 | 2.8秒 |
| 上司 | 5.3秒 |
話す速さは、相手に関係なく1秒あたり4.7〜5.0字で同じでした。変わるのは、相手との間の取り方と、一文の長さです。録音42本のうち26本は話した相手が記録されていなかったので、残りの16本からの数字です。
研究でも同じ向きの結果が出ていた
話し方が人を見分ける手がかりになることは、先行研究でも示されていました。
| 研究 | 分かったこと |
|---|---|
| Helander ほか(2007) | 声を正弦波に置き換え、言葉が聞き取れない音にしても、知り合いを当てられる(2択で70.4%) |
| Kanber ほか(2021) | 恋人の声は、「えー」「あー」のような言葉でない音からでも91.3%で当てられる |
| IMPersona(2025) | 文章で本人のふりをする AI に、家族でもだまされる。本人が書いた文でも、本人と判定されるのは70.5% |
| 遺族16人の聞き取り(2026) | 亡くなった人を模したチャットを「その人らしい」と感じるかは、内容の正しさより口調や言葉選びで決まる |
| Park ほか(2024) | アンケートの答えを当てるだけなら、話し方の特徴を除いた要約でも、面接の書き起こしと精度がほぼ同じ(0.81と0.83) |
最後の研究は、内容で測ると話し方の差が出ないことを示していて、私の結果と同じ向きです。その人らしさは「何を言うか」より「どう言うか」に出ます。
アプリの設計を変えた
この結果から、会話の保存の仕方を変えました。以前は、文字起こしを整えた文章だけを残していました。今は次のものを、自分が話した区間だけ残します。
- 話したままの言葉(整える前の文字起こし)
- 声の数字(高さ、速さ、間、笑い)
- 誰と話していたか
相手の声は残さず、音声そのものは24時間で消します。自分のコピーを評価するときも、選択の一致率ではなく、自分を知る人が文体や口調で「本人らしい」と感じるかで見ることにしました。
まとめ
- 自分の代わりをする AI は、日記を2万字読ませても自己紹介1行と同じ精度だった。材料を増やす前に、どこで頭打ちになるかを測る
- 自分の答えは聞き方で変わる。答えを材料に足すと、精度が下がることがある
- その人らしさは話し方に出る。発話の間と一文の長さは、相手によって変わる
- 本人らしさを残したいなら、整えた文章だけでなく、話したままの言葉と声の数字を残す
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