Engineering notes

先行研究の方法で自分のコピー AI を作ったが、何を学ばせても一致率は62〜67%で止まった

2026 年 11 月 6 日 · Liner Notes · English

先行研究にならって、言語モデルに自分の代わりをさせ、自分と同じ選択をするかを測りました。日記74日分(約2万字)、自己紹介の1行、面接の書き起こしなど、何を材料にしても、Apple の PCC での一致率は0.62〜0.67(62〜67%)に収まりました。日記を2万字読ませても自己紹介の1行と変わらず、材料を足すとむしろ下がることもありました。一方で、話し方は話す相手によってはっきり変わっていました。何を測って、アプリの設計をどう変えたかを書きます。

やりたかったこと

iPhone の日記アプリ(Liner Notes)を作っています。このアプリでは将来、「自分がどんな人だったかを家族に残す」ことを考えています。日記と会話の記録がたまれば、自分の代わりに答える AI(いわゆるデジタルツイン)をどこまで作れるのか、2026年10月に自分1人で測りました。方法は先行研究にならいました。Park ほか(2024)は、約1,000人に2時間の面接をして、その書き起こしから本人のアンケートの答えを言語モデルに予測させています。同じように、自分の材料を言語モデルに渡し、自分の答えを予測させました。

どう測ったか

自分の考え方や好みを問う74問を用意しました。性格、判断の仕方、時間やお金のリスクの取り方、日常の選択、社会的な態度の5つに分かれ、選択肢や5段階で答える形式です。まず自分で答え、次に言語モデルに材料を渡して「この人ならどう答えるか」を答えさせ、自分の答えとどれだけ近いかを測りました。

一致率は、1から「答えの差 ÷ 尺度の幅」を引いた値の平均です。1なら完全に一致です。でたらめに答えた場合は0.55になります。

モデルは、Mac で動かした Qwen2.5 の7B と14B(4bit)と、Apple の Private Cloud Compute(PCC)の3つです。

結果: 材料を変えても、一致率はほとんど変わらなかった

渡した材料PCC14B
でたらめに答えた場合0.550.55
材料なし0.53(答えず)
自己紹介の1行(年齢や家族構成などの基本情報)0.670.72
日記74日分(約2万字)と記録0.660.68
面接12問の書き起こし(約5,700字)0.660.61
自己紹介の1行と、考え方を聞いた31問の答え0.640.61

渡した材料ごとの一致率

1が完全一致

PCC14B
自己紹介の1行
0.67
0.72
日記74日分(約2万字)
0.66
0.68
面接12問(約5,700字)
0.66
0.61
1行と31問の答え
0.64
0.61

点線: でたらめに答えた場合(0.55)

表で見る
PCC14B
自己紹介の1行0.670.72
日記74日分(約2万字)0.660.68
面接12問(約5,700字)0.660.61
1行と31問の答え0.640.61

日記を2万字読ませても、自己紹介1行と変わりませんでした。自分の考え方を直接答えた31問を足すと、むしろ下がっています。74問で測った1人分の結果なので、±0.05ほどは誤差と見ています。

下がった理由を調べると、自分の答えが聞き方によって食い違っていました。31問では「十分なら決める」「保留は苦にならない」と自由に書いたのに、74問の5段階では「迷うのは苦痛」に「ややあてはまる」と答えていました。モデルは私の言葉に従って答え、外れていました。

材料に関係なく、モデルの偏りが強く出る問いもありました。時間やお金のリスクを問う9問では、PCC はどの材料を渡しても「安全で、今すぐ」の側を選び、9問とも私と逆でした。問いの種類ごとに見ると、日記が効いたのは判断の仕方だけで、時間とリスクの問いはどちらの材料でも動きません。

問いの種類ごとの一致率(PCC)

1が完全一致

自己紹介の1行日記74日分
性格
0.65
0.69
判断の仕方
0.8
0.88
時間とリスク
0.33
0.33
日常の選択
0.87
0.73
社会的な態度
0.57
0.55

点線: でたらめに答えた場合(0.55)

表で見る
自己紹介の1行日記74日分
性格0.650.69
判断の仕方0.80.88
時間とリスク0.330.33
日常の選択0.870.73
社会的な態度0.570.55

内容ではなく、話し方は相手で変わっていた

何を話すかを材料にしても精度が上がらないなら、その人らしさは別の所にありそうです。そこで、自分の会話の録音から、話し方の数字を相手ごとに出してみました。

相手発話の間(ま)一文の長さ
同僚1.6秒32字
妻2.2秒20字
娘2.8秒20字
上司5.3秒(未集計)

相手ごとの発話の間(ま)

秒

同僚
1.6秒
妻
2.2秒
娘
2.8秒
上司
5.3秒
表で見る
項目値
同僚1.6秒
妻2.2秒
娘2.8秒
上司5.3秒

話す速さは、相手に関係なく1秒あたり4.7〜5.0字で同じでした。変わるのは、相手との間の取り方と、一文の長さです。録音42本のうち26本は話した相手が記録されていなかったので、残りの16本からの数字です。

研究でも同じ向きの結果が出ていた

話し方が人を見分ける手がかりになることは、先行研究でも示されていました。

研究分かったこと
Helander ほか(2007)声を正弦波に置き換え、言葉が聞き取れない音にしても、知り合いを当てられる(2択で70.4%)
Kanber ほか(2021)恋人の声は、「えー」「あー」のような言葉でない音からでも91.3%で当てられる
IMPersona(2025)文章で本人のふりをする AI に、家族でもだまされる。本人が書いた文でも、本人と判定されるのは70.5%
遺族16人の聞き取り(2026)亡くなった人を模したチャットを「その人らしい」と感じるかは、内容の正しさより口調や言葉選びで決まる
Park ほか(2024)アンケートの答えを当てるだけなら、話し方の特徴を除いた要約でも、面接の書き起こしと精度がほぼ同じ(0.81と0.83)

最後の研究は、内容で測ると話し方の差が出ないことを示していて、私の結果と同じ向きです。その人らしさは「何を言うか」より「どう言うか」に出ます。

アプリの設計を変えた

この結果から、会話の保存の仕方を変えました。以前は、文字起こしを整えた文章だけを残していました。今は次のものを、自分が話した区間だけ残します。

相手の声は残さず、音声そのものは24時間で消します。自分のコピーを評価するときも、選択の一致率ではなく、自分を知る人が文体や口調で「本人らしい」と感じるかで見ることにしました。

まとめ

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